Reinhardtius hippoglossoides (カラスガレイ)
 Greenland halibut,

写真個体(上)は1976年に遠洋水産研究所(現:国際水産資源研究所)がベーリング海において実施したトロール調査で採捕。


写真個体(下)は岩手県の宮古魚市場で採集。全長442mm。

(北海道区水産研究所 亜寒帯漁業資源部 : 西村 明)
 
北川大二氏(東北区水産研究所)提供
 

オホーツク海の公海域で民間漁船が漁獲した体色が黄色のカラスガレイ。



耳石情報
耳石(扁平石)の表面(左)と凹面(中央)の模式図、および表面の写真(右)。飯塚・片山(2008)日本産硬骨魚類の耳石の外部形態に関する研究.水研センター研報,第25号より

平成18~28年度 カラスガレイの国際資源の現況の詳細は  こちらをクリック


(水産総合研究センター : )
北川大二(東北区水産研究所)提供
 
飯塚景記氏(元東北区水産研究所)・片山知史氏(東北大学農学部)提供
 

分 布:相模湾以北の各地、日本海、オホーツク海、ベーリング海、北米大陸西岸メキシコまで、北極海、北部大西洋(坂本、1984)。
生 態:水深50-2000m の海底に生息し、主にスケトウダラ、他にはゲンゲ類・イカ類・甲殻類を捕食する(坂本、1984)。
産卵期:北部太平洋では9〜12月(坂本、1984)。
卵:卵径は4.0-4.5mm、浮性卵で油球はなく、卵膜は円滑 (Ahlstrom et al., 1984; Matarese et al., 1989)。
仔稚魚:変態完了時の体長は約50 mmと、カレイ科では最大クラス (Tsukamoto et al., 1995)。仔稚魚の形態の詳細は、南 (1988)、Matarese et al. (1989)、Tsukamoto et al. (1995) を参照。
漁 業:底曵網で漁獲される(坂本、1984)。
利用・加工:普通刺身にするが、フライ等にもする(坂本、1984)。


(東京大学海洋研究所 : 猿渡敏郎)



References
1: Matarese, A. C., A. W. Kendall, Jr., D. M. Blood and B. M. Vinter (1989) Laboratory guide to early life history stages of Northeast Pacific fishes. NOAA Technical Report NMFS, 80: i-iv+1-652.
2: 南 卓志 (1988) カレイ科 Pleuronectidae. 沖山宗雄(編),p. 927-955. 日本産稚魚図鑑. 東海大学出版会,東京.
3: Sakamoto, K.(1984) Interrelationships of the family Pleuronectidae (Pisces: Pleuronectiformes). Memoirs of the Faculty of Fisheries, Hokkaido University, 31: 95-215.
4: Tsukamoto, Y., Y. Ueno, T. Minami and M. Okiyama (1995) Transforming specimens of two righteye flounders, Atheresthes evermanni and Reinhardtius hippoglossoides. Japanese Journal of Ichthyology, 41(4): 469-473.


Reinhardtius hippoglossoides (カラスガレイ)
 Greenland halibut,

分 類:硬骨魚綱棘鰭上目カレイ目カレイ科カラスガレイ属
形 態:背鰭条数83-109、臀鰭条数 62-84、胸鰭条数 11-15、腹鰭条数 5-7、尾鰭条数 19、側線鱗数 109-119、第一鰓弓の鰓耙数は上肢 2-6・下肢 10-16、腹椎骨数17-19、尾椎骨数43-46。体形はむしろ細長く、長卵円形。体高は標準体長の約3分の1。頭長は標準体長の30%弱。吻は長く尖り、吻長は眼径よりはるかに長い。吻は鱗を被る。眼は体側の右側、ただし上眼は頭部の背面に位置する。上眼の前縁は、下眼の前縁よりやや後方か、ほぼ真上。両眼の上表面は鱗に被われない。眼径はとくに小さく、頭長の約12-14%。両眼間隔は平たく、鱗で被われる。両眼間隔幅は眼径より大きいか、ほぼ等しい。口は大きく、左右ほぼ相称。有眼側の上顎は、長さが頭長の約40%で、その後端は下眼後縁の直下に達する。歯は大きく、鋭く尖り、倒せない。歯は左右でほぼ同様に発達する。上顎歯は2列で外列歯は内列歯より大きいが、内列歯最前部に1、2本の犬歯がある。下顎歯は1列。鰓耙は太くて短く、鋸歯状突起がある。鱗は細かく、有眼側・無眼側ともに円鱗。側線はほぼ真直ぐで、胸鰭上方に湾曲部がない。頭部側線系の上側頭枝 (supratemporal branch) が発達する。上側頭枝から後方に伸びる副枝はない。背鰭前端は上眼後縁の直後(無眼側の後鼻孔よりはるか後方)。肛門の直後に臀鰭第1担鰭骨の先端が突出しない。胸鰭の鰭条は分枝する(上端および下端の数本を除く)。左右の腹鰭はほぼ相称で、基底長は短い。尾鰭後縁は湾入する(または直線に近い)。尾柄は細長い。
体 長:1メートルに達する。
体 色:有眼側は一様に暗褐色。無眼側は有眼側より淡色。
類似種との識別:本種は口が大きいこと、体が比較的延長すること、尾柄部が長いこと、尾鰭後
縁が湾入することなどでアブラガレイ属 Atheresthes、オヒョウ属 Hippoglossus と似るが、上眼が頭部の背面にあること、眼径が特に小さく頭長の約12-14%に過ぎないこと、歯が内側に倒せないことなどで区別できる。
特記事項:Reinhardtius matsuurae Jordan and Snyder, 1901 は本種の新参異名 (Hubbs and Wilimovsky, 1964)。
観察標本:3個体(北海道大学大学院水産科学研究科・魚類多様性教室所蔵)。HUMZ 55930 (標準体長303.6 mm), HUMZ 55940 (304.7 mm), HUMZ 55941 (282.9 mm)


(国立科学博物館 : 星野浩一)



References
1: Ahlstrom, E. H., K. Amaoka, D. A. Hensley, H. G. Moser and B. Y. Sumida (1984) Pleuronectiformes: development. Pages 640-670 in H. G. Moser, W. J. Richards, D. M. Cohen, M. P. Fahay, A. W. Kendall, Jr. and S. L. Richardson, eds. Ontogeny and systematics of fishes. American Society for Ichthyologists and Herpetologists, Special Publication 1.
2: 尼岡邦夫・仲谷一宏・矢部 衛(1995)北日本魚類大図鑑.北日本海洋センター,札幌.390 pp.
3: 尼岡邦夫・仲谷一宏・新谷久男・安井達夫(編)(1983)東北海域・北海道オホーツク海域の魚類.社団法人日本水産資源保護協会,東京.371 pp.
4: Cooper, J. A. and F. Chapleau (1998) Monophyly and intrarelationships of the family Pleuronectidae (Pleuronectiformes), with a revised classification. Fishery Bulletin, 96(4): 686-726.
5: Hoshino, K. (2001) Homologies of the caudal fin rays of Pleuronectiformes (Teleostei). Ichthyological Research, 48(3): 231-246.
6: Hubbs, C. L. and N. J. Wilimovsky (1964) Distribution and synonymy in the Pacific Ocean, and variation, of the Greenland halibut, Reinhardtius hippoglossoides (Walbaum). J. Fish. Res. Bd. Can., 21: 1129-1154.
7: Kramer, D. E., W. H. Barss, B. C. Paust and B. E. Bracken (1995) Guide to northeast Pacific flatfishes. Families Bothidae, Cynoglossidae, and Pleuronectidae. Alaska Sea Grant, Fairbanks, Marine Advisory Bull., 47. 104 pp.
8: 松原喜代松 (1955) 魚類の形態と検索.石崎書店,東京.xi+1605 pp+135 pls.
9: Mecklenburg, C. W., T. A. Mecklenburg and L. K. Thorsteinson (2002) Fishes of Alaska. American Fisheries Society, Bethesda, Maryland. xxxvii+1037 pp.
10: Norman, J. R. (1934) A systematic monograph of the flatfishes (Heterosomata). Vol. 1. Psettodidae, Bothidae, Pleuronectidae. British Museum (Natural History), London. viii+459 pp.
11: 坂本一男(1984)カレイ科. 益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編),p. 336-340.日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.
12: Suzuki, N., M. Nishida and K. Amaoka (2001) The phylogenetic position of the genus Atheresthes (Pleuronectidae) and its classification: a molecular phylogenetic approach using mitochondrial sequence data. Bulletin of Fisheries Sciences Hokkaido University, 52: 39-46.
13: 上野達治(1955) 「カレイ類」の手引き.農林省農林経済局統計調査部,札幌.115 pp.
14: 中坊徹次(2000)カレイ科.中坊徹次(編),p. 1371-1379. 日本産魚類検索 全種の同定 第二版.東海大学出版会,東京.


Reinhardtius hippoglossoides (カラスガレイ)
 Greenland halibut,

{分布}
カラスガレイは日本海、オホーツク海からベーリング海を含む北太平洋を経て北大西洋にまで広く分布することが知られているが、これらの資源構造は明らかになっていない。オホーツク海の大陸棚上及び大陸棚斜面を索餌海域として利用しており、スケトウダラ等魚類やイカ類を餌として利用していることが知られているが、この海域における産卵場についての知見はない。
{成長・年齢}
目合い22.7 cm の底さし網を漁具として使用していることから、漁獲される魚体はおよそ500 mm 以上の成魚が主体となっている。年齢査定には耳石の適用例があるが、年齢表示は不鮮明で年齢査定は容易ではない。大西洋における既往の知見によると、耳石年齢査定及び体長分解により500 mm 以上のカラスガレイは5~7 歳以上であろうと考えられる(Bowering 1983、Bowering and Nedreaas 2001)。また、ベーリング海のカラスガレイについては、日米共同底魚調査の結果から成長曲線が得られている(バッカラほか 1990)。寿命は明らかではないが、10年以上と考えられる。
1990 年代始めの漁獲物組成を見ると600 mm 以上の魚が多く出現しているが、CPUE が1996 年に激減し、その後再び1998 年に増加したが、この間の漁獲物は600 mm以下の小型の魚が主体となっていた。1980 年代に高い豊度で加入した魚が漁獲と自然死亡でいなくなった後に、新たな年級が加入してきた可能性が示される。このような豊度の高い年級のこの海域への加入と生き残りが、漁獲を支えているものと考えられる。1990 年代前半の平均体長はおよそ630 mm であったのに対して、2000 年以降の平均体長はおよそ570 mmとなっているが、2002~2004 年の漁獲物からは高い豊度での小型/若齢魚の加入の兆候は見られていない。
{繁殖生態}
本種の産卵期は、依田ほか(1988)によると9 月以降とされている。過去の漁獲物調査で得られた雌標本魚を材料として、生殖腺重量指数GSI(生殖腺重量/魚体重×100)の体長に対する変動を調べると、GSI は体長550 mm 前後から増大し始め、およそ600mm 以上になると大きくばらつき、GSI の高い個体では生殖腺が大きくなるとともに、卵径も大きく成熟に向かっていた。このことから、この海域における雌魚の成熟の開始は体長550 mm 以降(5 から7 歳頃)に起きるものと推定された。したがって、500 mm 以下の魚は未成魚としてこの海域に分布しているものと考えられる。


(北海道区水産研究所 亜寒帯漁業資源部 : 西村 明)



References
1: Bowering, W.R.(1983) Age, growth and sexual maturity of Greenland halibut, Reinhardtius hippoglossoides (Walbaum), in the Canadian northwest Atlantic. Fish. Bull., 81, 599-611.
2: Bowering, W. R. and K. H. Nedreaas(2001) Age validation and growth of Greenland halibut (Reinharditius hippoglossoides (Walbaum)): A comparison of populations in the Northwest and Northeast Atlantic. SARSIA, 86: 53-68.
3: バッカラ G・若林 清・岡田啓介・トレーナー J.J.・サンプル T.M.・山口閎常・オルトン M.S.・ネルソン M.O.(1990) ベーリング海における1979年5 月~8 月の日米共同底魚調査の結果.INPFC 研究報告, 44: 1-245.
4: 依田 孝・井上 卓・下田隆利・晴山義範(1988) オホーツク公海のカラスガレイについて. 釧路水試だより, 62: 1-6.


Reinhardtius hippoglossoides (カラスガレイ)
 Greenland halibut,

{漁業}
オホーツク海の中央部には、ロシア主張200 海里水域(EEZ)に囲まれて公海が存在する。この公海は、概ね東経148~151 度、北緯51~56 度で囲まれる細長い海域で、ベーリング公海がドーナッツ・ホールと呼ばれるのに対して、その形からピーナッツ・ホールと称される。公海の北部では、水深はおよそ500 m と比較的浅く、南に向かい次第に急斜面となり、1,000 m 以深となるが、公海の南西部は大陸棚斜面に向いて比較的浅くなっている。
我が国は2000 年6 月に「保存及び管理のための国際的な措置の公海上の漁船による遵守を促進するための協定」(フラッギング協定)を受諾したことから、カラスガレイを対象としたオホーツク公海におけるカラスガレイ底さし網漁業は本協定の対象漁業となり、2000 年よりそれまでの北海道知事許可漁業から大臣承認漁業に切り替えられた。
オホーツク公海におけるカラスガレイを対象とした底さし網漁業は1986 年に北海道の試験操業として始めて実施された(依田ほか 1988)。5~6 隻が特別採捕の知事許可を得て、22.7 cmの大きな目合いの底さし網を使用して、カラスガレイ成魚を対象とした操業を開始した。オホーツク公海における漁期は4 月から12 月までであり、冬期間は海氷に覆われるため漁は中断される。本漁業においては、混獲魚としてカスベ、キチジ等が漁獲される。2000 年以前の漁業情報や生物情報は、北海道立水産試験場により集められており(北海道庁 2000)、本稿でもこれらの情報を利用している。
漁業開始時の漁獲量は概ね4,000 トンを超えており、CPUE も20 kg/反を超えていたが、1992 年からはロシアEEZでの操業が可能になったことから、漁獲努力は公海を離れてロシアEEZ に集中した。このことが1992 年以降の漁獲量の減少に影響している。しかしながら、ほぼ同時に公海におけるCPUEが1991 年をピークとして急激に減少しており、1996年には3.1 kg/反とピーク時の1/10 程度にまで落ち込み、資源水準が低下したことが示されている。この原因として、当時、ポーランド等のトロール船がスケトウダラを対象とした操業をこの海域で行っていた影響が指摘されている。
1992 年から1999 年までは本漁業は、公海とロシアEEZ の両海域を利用しながら行われていたが、2001年よりロシアEEZ での操業ができなくなり、近年の操業は5 月から12 月の漁期中、公海での操業に集中することとなった。このような操業形態の変化を反映して、近年のCPUE は10~20 kg/反付近で経年的に大きく変動しており、一定の傾向を判断することは困難な状況にある。また、2002 年以降は、漁場においてシャチによる漁業被害が頻繁に起こっているとの情報もあり、このことがCPUE の解釈をさらに困難にさせている。2001 年、2002 年と操業が公海に集中したことを反映して漁獲量は一時的に増加に転じ、2002 年には1,398 トンの漁獲が得られたが、2003年以降、操業隻数が3 隻から2 隻に減船し、これによる漁獲努力量の減少等にともない近年の漁獲量は600 トン前後となっている。漁場は、オホーツク公海の北部と南西部に見られるが、これは500~1,000m の水深帯に概ね一致する。ロシアEEZ での操業が行われていた時期には、公海東側の大陸棚斜面域周辺で漁獲が得られていたことを考えると、オホーツク公海資源は、隣接するロシアEEZ大陸棚斜面に分布する資源と連続しているものと考えられる。ロシアでは、オホーツク海の大陸棚周辺海域において80 年代まではトロールにより、また、90 年代に入ってからははえ縄又は底さし網によりカラスガレイ漁業が行われている。
オホーツク海北東海域における1991~2001 年の平均漁獲量は4,300 トンで、近年は10,000 トン前後の漁獲が得られているとされている。

平成22年度のカラスガレイのオホーツク公海資源の詳細は こちらへ


(北海道区水産研究所 亜寒帯漁業資源部 : 西村 明)



References
1: 依田 孝・井上 卓・下田隆利・晴山義範(1988) オホーツク公海のカラスガレイについて. 釧路水試だより, 62: 1-6.
2: 北海道水産林務部・根室支庁・釧路水産試験場(2000)平成11年度オホーツク公海の底刺し網漁業試験操業調査概況. 北海道庁, 札幌. 14 pp.


Reinhardtius hippoglossoides (カラスガレイ)
 Greenland halibut,

{利用}
切り身等に利用される。


(北海道区水産研究所 亜寒帯漁業資源部 : 西村 明)